世界的に新型コロナウイルスが蔓延する中、感染を比較的抑えられている台湾と感染者0のパラオ間で4月1日から「トラベルバブル」が開始された。
台湾にて日本の自治体のインバウンドプロモーション事業サポートを展開する誠亜国際有限公司は、同月22日に居留書を持つ台湾在住外国人も参加が可能となったことから、社員一同研修旅行として5月5日〜5月8日に参加をしてきた。
日本人初めて台湾パラオトラベルバブルに参加した様子をレポートしたい。
台湾−パラオトラベルバブルの概要
2021年4月1日より毎週水、土曜日の週2便桃園国際空港−パラオ国際空港間をチャイナエアラインより運航し、現在8社の台湾旅行会社が3泊4日或いは4泊5日のツアーを販売している。販売価格は3泊4日で20万円弱からで、販売開始当初の30万円前後からはかなり値下がりしているものの、コロナ前のおよそ1.5倍以上の価格となっている。
出発前と帰国後のPCR検査が義務付けられており、出発前はツアー費用費組み込まれたものが多いが、帰国後の検査は自費で2万円前後かかる。パラオ到着後の自己隔離は免除されるが、団体ツアーへの参加が必須で自由行動はできず、安全証明の認可を受けた施設しか使用できないという縛りもある。
詳細な参加条件としては以下の通りだ。
■出発前
A. 中華民国国籍(4月1日〜)或いは中華民国居留証を保持する外国籍(4月22日〜)である。
B. 6ヶ月以内に出入国歴がない。
C. 2ヶ月以内に在宅隔離/検疫及び自主健康管理がない。
D. 3ヶ月以内に新型コロナウイルスにかかっていない。
E. 出発前に空港でのPCR検査を行い、陰性レポートを取得する。
また、出発の3日前までにパラオ政府のエントリーシートと健康声明書をウェブ上で入力・提出し、印刷して持参する。
■パラオ到着後
全行程以下の5大防疫原則を守る:
A. 全行程ツアーに加わり、個人行動を計画してはいけない。
B. 行程は予め適切な拠点及びツアー路線を選定し、原則人が多いところ、特定の区域や現地住民区画を避ける。
C. 全行程決められた場所での送迎を行い、送迎する移動手段は毎日消毒を行う。
D. パラオ現地の衛生機構が認可した「安全防疫関連認証」を取得した宿泊施設のみ宿泊可。
E. レストランでの食事は専用のエリアがあり、適切な人数制限、出入り口の動線及び座席配置が施され、適切なソーシャルディスタンスが保てる場所で行う。
また、上記以外の以下の防疫措置を取る:
a. こまめに手洗い・消毒を行い、全行程マスク着用、ソ−シャルディスタンス及び動線の確保を行う。
b. 毎日体温測定し健康状況を記録する。
c. 疑わしい病状が出たらガイドへ報告し、ガイドから処置と通報を協力してもらう。
■帰国後
A. 入境後から14日間一般自主健康管理を行う
※自主健康管理:外出時のマスク全行程着用、毎晩の体温測定及び行動の記録、こまめな手洗い、緊急時以外の病院への受診は避ける、等。症状がない場合は出勤や交通機関利用は可能だが、医療用マスク着用やソーシャルディスタンス確保等を厳守する。近距離や不特定多数が参加する集まり、行事への参加は禁ずる。
B. 帰国から5日目に自費でPCR検査を行う。
※遅くとも7日目までに検査を受けなかった場合、1万〜15万元の罰金かつ強制的に集中検疫所に14日間送られる。
規定としては上記となるが、基本的にはしっかりと旅行会社から配布される資料への記入と、現地ガイドの指示に従うこと、帰国後の自主健康管理及びPCR検査に気をつけていれば良い。
(衛生福利部”臺帛安全旅行圈 QA” https://www.cdc.gov.tw/File/Get/LXoTS9JEac_CfYerROI7cQ)
いざパラオへ
出発の3日前までにパラオ政府のエントリーシートと健康声明書をウェブ上で入力・登録した上で印刷して持参し、桃園国際空港へ向かう。
■桃園国際空港
PCR検査を空港で受ける関係で、出発の11:30より4時間以上早い7:00、桃園空港第二ターミナル出発フロアに集合。参加者は30数名、内20数名のグループ、単独参加の1名、パラオ人と見られる方が2名と我々5名だ。
7:40から予め割り当てられた順番でPCR検査が空港内施設で開始され、最後尾であった筆者は8時頃に検査を行った。検査の結果が出るまで3階出国ロビーの一部区域または5階飲食エリアで待機という規定だったが、基本的に監視も規制もなく自由に動き回ることができる。
10:30 PCR検査結果判明後、搭乗手続を経て出国手続へと移る。この際の動線は他の一般旅客と同じで、出国審査の有人・自動ゲートの選択や免税店など一般的な搭乗行程と変わらなかった。
■機内
通常通り搭乗時間に合わせゲートへと向かい、搭乗手続きを行う。乗客は皆マスクを付けての搭乗だ。
機材はナローボディ機のB737-800型。座席は基本的に3列シートの中央を空けての割振だった。機内158席の内110席のみ旅客に割り当てられているが、今回は搭乗旅客数が30数名のみでかなり余裕があったため、1列空いている席に移動して横になる人も見受けられた(規定上、座席移動は乗務員の許可が必要)。
CAは簡易防護服及び防護ゴーグル、ゴム手袋を着用。食事提供の際はゴム手袋の上から更に一枚透明のビニール手袋を付けていた。機内食は鶏肉か魚、普段と変わらない様子であった。ただ飲み物の提供はペットボトルの水か、コップへのお茶かコーヒーのみで、アルコールやソフトドリンク類の提供はなかった。
■パラオ国際空港
16:20到着後、入国審査。税関でエントリーシートと健康声明書を提出。
パラオでは感染者が0で我々以外に入国者はいないため、空港職員もマスク着用のみで緊張した様子は全くなかった。また他の利用客がいないため、空港内のあらゆる店は閉まっていた。
空港を出ると台湾とはまた違った南国の空気を感じ、非常に心地よい。各グループそれぞれの現地ガイドに従い、それぞれのバスでホテルへ向かった。
■ホテル
我々5名のみで貸切となった中型バス車内で、中国人現地ガイドのJさんの挨拶及び注意事項の説明を受ける中、10分ほどでアイライウォーターパラダイスホテル&スパへと到着した。入り口で検温とアルコール消毒をした後、防護シートで覆われたカウンターでマスク着用のスタッフからルームキーを受け取る。3階建て75室を有するこのホテルの宿泊客はどうやら我々5名のみのようだ。
ホテルで荷物を整理した後、夕食まで施設内でのんびり過ごす。スライダー付きプールでは現地の人が数名子連れで遊びに来ていた。
食堂では各テーブル2人までで、それぞれ1mほどの距離が空くよう設置されていた。プレートでの提供で、お酒も缶のアサヒかバドワイザー、ウイスキーコークしか無いようだ。1年以上の国境封鎖の後トラベルバブルが開始されてから我々が宿泊するまで1人しか宿泊客がいなかったとのことであるから、在庫がないのも当然であろう。メニューを開くとカビの臭いが漂った。
夕食後、外へ買い出しにもいけないので、早々に就寝する。
観光スポット全部貸し切り
二日目の朝よりガイドJさんの引率の元、泥パックで有名なミルキーウェイやクラゲに囲まれて泳げるジェリーフィッシュレイク等パラオの著名なスポットへと訪れた。
海に出るまでの動線は決められており、ホテルからバスで移動しランドオペレーターの施設内でシュノーケリング機材を準備、再度バスで政府指定の船乗り場へと移動した。機材準備時にはガイドの同僚や地元の方がおしゃべりをしており、少々距離をとって交流もできた。
船上には政府から派遣された操縦士とJさん、Jさんの同僚の3名が付いた。皆久しぶりに海へ出たため興奮している様子で、こちらまで嬉しくなる。
防疫対策としては、乗船時にはマスク着用、海に入る時は外すとのことであったが、一度海に入ってしまうと顔が濡れてしまうので、ドルフィンズパシフィック等施設内に入る以外は船に上がっても外しっぱなしにせざるを得ないというのが現状であった。またシュノーケリング時はガイドのビート板に掴まるため、シュノーケルマスクをしているとはいえガイドとの距離は近くなる。
どのスポットも他の観光客がいないため、我々5名で独占だ。特にジェリーフィッシュレイクは生態保護のため封鎖していたが、2019年に再開された矢先コロナになったため、今はとてもいい状態でクラゲを見ることができる、とJさんは言う。パラオの美しい大自然を最高の状態で且つ完全貸切状態で楽しめるのは、おそらく後にも先にもないだろう。
■レストラン
夕食は台湾人が経営する台湾式居酒屋いわゆる「熱炒店」だ。
壁に防疫説明のポスターや安全証明のステッカーが掲げられていたが、入店時のアルコール消毒や検温はなかった。別卓では我々とは別の20数名の団体がお酒も入りマスク無しで宴会状態となっていた。店員もマスク着用はまちまちで、コロナ対策が万全とはいえない。安全証明の制度はあるものの、普段対策をする必要がない土地で確実に浸透させることの難しさを感じた。
■ショッピングモール
食後はツアー行程の一つとしてパラオ最大のショッピングセンター「WCTCショッピングセンター」へ訪れた。入り口のアルコール自動噴射器の他、レジに透明シート、レジ内の店員はマスクをしていたが、荷出しや袋詰めの店員はマスク未着用の人も見受けられた。
現地の一般客はアジア人含め一人もマスクをしておらず、客では我々しかマスクをしていなかったので、トラベルバブル観光客だとひと目で分かっただろう。特に警戒されることなく、逆に笑顔で挨拶してくれたり、「パラオは安全だよ」と話しかけてくれたりと友好的だった。
パラオ在住の方の声
三日目は事前に連絡を取り合っていたパラオ在住日本人のHさんにホテルまでお越しいただき、現地のお話を伺った(ホテルのロビーで現地の方と会うことは問題ないことを旅行会社、ホテルに確認済み)。以下、現地ガイドJさんの方の話も交えて現地の声をお伝えする。
■コロナ禍のパラオ
主要産業が観光業であるパラオでは、コロナの影響で60%程度が失業することとなった。しかしアメリカからの手厚い支援があり、ボート操縦士等対象業種のパラオ人がWIOAというシステムを通じて助成金を申請すれば、本来の給料を大幅に超える300万円程度が支給される(一般観光業従事者は月収10万円程度)。しかしパラオの国民性から一度に大金を支給されると、すぐに使い切ってしまうようで、昨年街中で急激に新車を目にする機会が増えたようだ。
パラオ在住の外国人に対しても支援はあるが、もらえる額はパラオ人のように十分ではなく、切り詰めた生活を送る必要がある。現地ガイドの方は、2020年4月にパラオに観光客が入ってこなくなってからトラベルバブル再開までは、毎月約400ドルの補助金でなんとか切り詰めて生活していた。お話を伺ったHさんは観光業に従事しているが、エンジニアであるため仕事量は減ったが収入が完全になくなった訳ではなく、減額された給料に補助金の補填はない。また観光客が収入源であるドルフィンズパシフィックは、イルカのエサ代を確保するためのクラウドファンディングによる支援でなんとかしのいでいる。
■トラベルバブルへの反応
トラベルバブルについての地元の方の反応としては、特に気にしていない、というのが実情とのことだ。補助金で生活はできており、観光客が行くところと生活圏ではほぼ接触がなく、生活に特に影響がないからだ。ただ感染に対する心配はあり、ショッピングセンターでの買い物を、観光客が立ち寄らない日中に済ませる人も多い。
また、台湾からのトラベルバブル参加者の一部が、自由行動が禁止されているにも関わらず、勝手に出歩いて夜景の写真を撮っていたという話も聞くという。
パラオでは医療が発達しておらず、内臓系疾患など高度な医療技術が必要な場合は、グアムや台湾へ出向かないと治療できないため、もしパラオにコロナが入ってきたら1週間程度で医療崩壊してしまうのではないか、という懸念もあるとのことだ。
■政府の対策
宿泊施設やレストラン、小売店がトラベルバブル観光客を受け入れるには、感染症対策プログラム(Pandemic Certification Program)を完了させ、安全証明を獲得する必要がある。合格するとSAFE FOR YOUとかかれたステッカーを店頭に掲げることができる。
4月30日時点で144の施設・団体がプログラムを完了させているが、認可自体に費用はかからないものの、従業員への教育や消毒等の設備等費用出費や、来訪者がまだ少なく認可を受けてもすぐに売上に反映されるわけではないため、安全証明獲得に積極的ではないところもあるとのことだ。
また、参加者への制限も多方からの意見を聞いて日々更新しているようだ。例えば当初はショッピングセンターへの訪問を、一般客が帰った後に30分トラベルバブル参加者に開放するとしていたが、お金を支払う側がなぜ制限を受ける必要があるのかという声を受け制限をなくした。
徹底された帰路
最終日では午前中に公園や伝統的建築物を観光した後、行程にはなかった雑貨屋に行きたいとガイドへリクエスト、安全証明を確認後、無事お土産を購入できた。ホテルへ戻った後、各ホテルスタッフやガイド、バス運転手へ感謝と応援の気持ちを込め、多めにチップを渡す。
空港へ向かう前、パラオ国際空港で提出する健康声明書へのサイン、台湾入国用の衛生福利部入境検疫系統をスマートフォンで登録する必要があったため済ませておく。
■パラオ国際空港
17:00前にパラオ空港へ到着。
台湾からの引率ガイドに従い受付をし、健康声明書の提出、荷物預け、出国審査手続を行う。
出国審査後は免税店付きの待合室で搭乗まで待機。審査業務を終えた空港職員はマスクを外して各々リラックスしていた。
■機内
機材は往路便と同様であったが、往路便と比べ前方に密集した座席配分で、3列シートに3名座っているところも見受けられた。後方の1/3程度はデッドヘッド(移動のみで業務なし)のCAが着座する座席となっており、恐らく往路と復路でクルーを分けていると思われる。
機内食は鶏肉麺か魚煮込み飯、デザートに黒糖タピオカアイスが出てきたのは周りの台湾人もクスリとしていた。
■桃園国際空港
無事到着しスマートフォンの機内モードを解除すると、入境検疫系統登録完了確認のSMSを受信した。ボーディングブリッジを抜けた後は、全行程グランドスタッフの引率のもと全てトラベルバブルツアー客向けの決められた動線にしたがって行動する。その間スタッフは皆無線でツアー客の経過状況を報告・共有しており、全行程スムーズかつ安全に進められた。
指定の待合場で一般旅客とトラベルバブル参加者に分けられた後、トイレに行きたい人は指定された化粧室に同時に向かい、用を足したら待合場に戻る。その間にも職員の監視有り。
トイレから戻り参加者が全員揃ったところで、各団体に分かれて行動する。それぞれにチャイナエアラインのグランドスタッフ1名が付き入国ホール手前まで向かう。脇には地面の消毒部隊が待機。
免税店の前で空港職員による入境検疫系統登録の確認後、トラベルバブル参加者専用の免税店に立ち寄る。免税店の店員は簡易防護服、マスク、ゴム手袋着用。入店時に検温と手の消毒がなされる。
その後入国審査、手荷物受取、税関を抜け、到着ロビーへと向かう。到着ロビーには消毒部隊と、警備員が待機していた。トラベルバブルの参加者かどうか、帰宅方法等を聞かれた後、各乗り場へと誘導される。相乗りは2名までという制限があった。専用タクシー乗車後、乗り場職員がタクシー後方から乗車確認とナンバープレートを撮影し記録を残す。こうして台湾の徹底された防疫対策のもと無事台北の自宅へと帰った。
帰国後の不便
トラベルバブルから帰国後14日間は前述した「一般自主健康管理期間」に入る。症状が無い限りは交通機関の利用は可能となっているが、社員一同バイクやシェアサイクルでの通勤を行い、外食はせず持ち帰りのみとした。またインターネットでPCR検査の予約を行い、帰国5日目に検査を行った。2日後に陰性と判明しホッとしたのもつかの間、報道の通り現在台湾では市中感染が激増し、自主健康管理期間終了前に台湾全土が更に厳格な警戒レベル3の防疫措置の強化を行っている。
参加した感想
■高額な参加費
特殊な状況下のため致し方ないが、ツアー料金が開始当初の30万円から大幅に下がったとはいえ、通常時の1.5倍以上の金額はやはり割高に感じる。帰国後のPCR検査も少なくない出費である。
■帰国後の不便さ
自主健康管理期間は隔離ではないにせよ行動制限が多く、会社勤めや子供のいる家庭では周囲の目も気になるだろう。
■宣伝不足
殆どの台湾人の友人は隔離免除であることを知らなかった。おそらくニュースの断片的な部分しか見ておらず、「隔離前提の海外旅行が再開された」という誤ったイメージが広がってしまっているのだろう。台湾政府肝いりの施策だけに、宣伝はもっと強化すべきだと思う。
また、トラベルバブル開始以来パラオ商品の売れ行きは非常に不調だが、理由としてはやはり上記の3つがメインであろう。旅行会社も既に悲鳴を上げており、現行の知名度と価格面でどこまで市場が持ち堪えられるだろうか。
■ツアーの制限
フリータイムの自由な外出ができないのと、現地オプショナルツアーは全員参加が義務付けられているなど、一定の制限があるのが仕方ないとは言え不便を感じた。一方、監視や管理はほぼ無いため、ホテルからこっそり抜け出しても咎められることはなかっただろう。
■現地でのコロナ対策の不十分
コロナ対策認可を受けたホテル・レストラン・スーパー等アルコール消毒やレジの仕切り等対策は一応しているが、店員がマスク未着用であったり、現地の人と接触できてしまう場所も多く、こちらから現地の人に移してしまっては大変だと全行程でのマスク着用に注意した。参加国内がよほどコロナが抑えられていないと、移してしまう危険性も否定できない。
■地元民の反応
地元の方々に恐れられたり避けられたりしている感じはなく、笑顔で非常にフレンドリーな態度で接してくれた。知っている中国語や日本語で話しかけられたのも印象的だ。
■観光地、ホテル、全てが貸切状態
他の観光客が一切いないため、どの観光地も貸切状態。トラベルバブルでしか味わえないであろう、貴重な体験となった。
なお、現在は台湾国内の市中感染急増の影響から、台湾パラオトラベルバブルは一時中断している。
ただ、今回の参加で、パラオ観光業事業者のこれまでの苦労と、観光再開への切実な期待を感じずにはいられなかった。全世界でこの疫病が一刻も早く収束し、安全な旅行ができるようになることを切に願う。